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徳島地方裁判所 昭和45年(ヨ)88号 判決

申請人

宮下好美

外五名

代理人

鏑木圭介

河田毅

被申請人(被参加人)

四国高速運輸株式会社

代理人

岡田洋之

補助参加人

全日本労働総同盟

全国交通運輸労働組合総連合

四国地方本部四国高速運輸労働組合

代理人

城戸寛

主文

一、被申請人は申請人らをその従業員として仮りに取り扱え。

二、1 被申請人は申請人宮下好美および同笹岡久雄に対し昭和四四年一一月一三日から本案判決確定に至るまで毎月末日限り一ケ月金七二、〇〇〇円の割合による各金員を仮りに支払え。

2 被申請人は申請人林孝に対し昭和四四年一一月一三日から本案判決確定に至るまで毎月末日限り一ケ月金六八、〇〇〇円の割合による金員を仮りに支払え。

3 被申請人は申請人呉羽邦夫に対し昭和四五年四月五日から本案判決確定に至るまで毎月末日限り一ケ月金六四、七〇〇円の割合による金員を仮に支払え。

4 被申請人は申請人白石重雄に対し昭和四五年四月五日から本案判決確定に至るまで毎月末日限り一ケ月金六三、〇五八円の割合による金員を仮りに支払え。

5 被申請人は申請人横山修に対し昭和四五年四月五日から本案判決確定に至るまで毎月末日限り一ケ月金六一、四三一円の割合による金員を仮りに支払え。

三、訴訟費用中、補助参加に因つて生じた費用は補助参加人の、その余の費用は被申請人の、各負担とする。

事実

第一  当事者の求める裁判

一申請人ら

主文同旨の裁判(伯し、参加訴訟費用負担に関する部分を除く)

二、被申請人

「1申請人らの本件仮処分申請をいずれも却下する。2訴訟費用は申請人らの負担とする。」との裁判。

第二  申請の理由

一、被申請人は、肩書地に本店をおき、自動車による貨物運送事業等を営む株式会社(以下被申請会社という。)であり、申請人白石重雄、同笹岡久雄、同宮下好美、同呉羽邦夫は昭和四一年、同横山修は昭和四二年、同林孝は昭和四三年それぞれ被申請会社に入社し、同人らはいずれも申請外新日本理化株式会社内にある被申請会社の営業所(以下理化営業所という。)に勤務する従業員であつた。

二、被申請会社と全日本労働総同盟全国交通運輸労働組合総連合四国地方本部四国高速運輸労働組合(以下参加人組合という。)との間にいわゆるユニオンショップ協定が締結されていたところ、右組合は、もとその組合員であつた申請人ら六名がいずれも非組合員となつたため、被申請会社に対し右協定に基づき申請人らを解雇するよう要求し、その結果右会社は、同協定に基づき申請人宮下好美、同林孝および同笹岡久雄および同横山修に対して昭和四五年四月四日それぞれ解雇する旨意思表示(以下本件解雇という。)をした。なお、申請人呉羽、白石、横山の三名に対する解雇については、右理由のほか、同人らが昭和四四年一一月一九日から解雇の日まで正当の理由なく無断欠勤を続けた点が就業規則(疎乙第二八号証)第六一条第一号に該当するということをも理由としている。

三、しかし、本件解雇は無効である。すなわち、〈以下省略〉

理由

一、申請の理由一、二の事実はすべて当事者間に争いがない。〈証拠〉によれば、被申請会社と参加人組合との間に有効に存在したユニオンショップ協定は、昭和四三年一一月一三日から翌昭和四四年一二月一一日までは右当事者間の労働協約(疎乙第一号証)第五条に、同日以降はその第四条(同第一一号証効力期間経過により再締結されたもの)にそれぞれ定められているもので、前者の五条は「組合を除名された者又は加入しない者は原則としてこれを解雇する。但し、前項を履行する場合、会社の業務に重大な支障を来たす恐れのあるとき、その他特別の事情のあるときは会社は組合とその取扱いに関し別途協議の上決定する。」と定められ、後者の四条は「会社は組合に加入しない者、組合を脱退した者、または組合から除名された者を即時解雇する。」と定められていること及び、前者の場合すなわち、宮下ら三役の参加人組合脱退のさいに(後記認定事実参照)特にその但書適用の詮議はなされなかつたことが疎明される。

二、そこで、本件解雇の効力について検討する。

(一)、ユニオンショップ協定を理由とする本件解雇の効力について

申請人らがいずれも被申請会社に入社後参加人組合に自動的に加入し、もとその組合員であつたことは当事者間に争いがない。

そこで、申請人らの参加人組合脱退経過をみるに、〈証拠〉を綜合すると次の事実が疎明される。すなわち、

申請人らは、かつて、申請人宮下が昭和四四年七月一三日開催された参加人組合の代議員大会において理化営業所従業員の代表として同年度夏季一時金の要求額について意見を述べたところ、その要求は過当であるとして組合執行部や他の代議員の受け入れるところとならなかつたことや、昭和四三年ならびに同四四年度の組合役員選挙が必ずしも組合規約に則つて実施されなかつたことなどから、参加人組合に飽き足らず同組合は労働組合として独自性に欠け、労働者の権利を擁護するための組合活動は不活発でその運営も下部の意見を十分汲んでないと考えるに至り、このさい、もつと積極的に組合活動を行なう労働組合を結成する必要があると思うようになつた。そこで、参加人組合と全く別系統に属する全日本港湾労働組合(全国の港湾産業およびこれに関連する産業に従事する労働者を対象とし個人加入を原則とするいわゆる全国的単一組織)の下部組織である同組合関西地方本部沿岸南支部の指導のもとに、申請人らの勤務先であつた理化営業所を拠点として新組合結成の準備を進め、申請人宮下好美、同笹岡久雄、同横山修、同白石重雄および同呉羽邦夫は昭和四四年一〇月一七日付、同林孝は同年同月二九日付各加入申込書を全港湾沿岸南支部宛に提出してその頃同支部にそれぞれ個人加入し、次いで同年一一月四日右申請人らは他数名とともに全港湾沿岸南支部四国高速運輸分会を結成し、申請人宮下が同分会委員長、同林が同副委員長、同笹岡久雄が同書記長にそれぞれ選任された。しかして、申請人宮下ら三名は同年同月八日付で、同呉羽および同白石は、翌昭和四五年三月一四日付で、同横山は同年同月一八日付で、参加人組合に対しそれぞれ書面による脱退届を提出した。

以上の各事実が疎明され、他に右疎明事実を左右するに足る疎明はない。

右事実関係によれば、申請人らが企業内既存の参加人組合を脱退した動機目的は前記のような参加人組合に対する不満があつたからであり、かかる不満を解消するため企業外の既存労働組合すなわち全港湾沿岸南支部に加入したがためであることが認められる。

そこで、かかる場合の組合脱退にもユニオンショップ協定の効力が及ぶかについて検討するに、元来ショップ協定は当該協定締結組合の労働運動を強め、もつて使用者との力関係を有利に展開する機能をも有するものであり、その意味において、少くともその組合所属労働者の団結権保護(組織強制)の役割を果しているのであるから、ショップ協定の効力を徒らに過少評価し、骨抜きにすることは協定の趣旨を正解するものとは言えない。しかし、他方ひるがえつて考えてみると、もともと労働者はすべて基本的人権としていかなる労働組合を結成し、またはいかなる既存組合に加入することの自由または権利をも享受するものであることもちろんであるから、前記協定解釈に当つては個々の労働者のかかる権利、自由を尊重し、これをないがしろにしてはならないこともまた当然である(このように、ショップ協定は制度自体矛盾した契機を内在しているともいえる)。従つて、ショップ協定当事者たる既存組合を脱退した者が、単に個人的に、または前記協定の趣旨に反するような特段の事由によつて脱退する等正当な理由によらない脱退であれば格別、労働者としての信条や、既存組合の運営等に関し異見を有すること等の事由により、新組合を結成し(いわゆる組合の分裂現象の場合)、または、別の企業外既存組合(本件の場合)に加入することを直接の契機として脱退した如き場合は、もはや、右協定の効力は及ばないと解すべきである。前記事実によれば本件申請人らの参加人組合脱退の経緯は正に右の場合に該当すること明らかである(参加人組合提出の丙号各証、証人荒西一雄(第二回)の証言等によれば、もとより参加人組合とて何も組合員のための組合活動を怠つていたわけではなく、今も多数組合員の支持をえて健在であることがうかがわれるけれども、そのことの故に前記判断を左右することはできない。)

そうすると、被申請人の申請人らに対するユニオンショップ協定に基く解雇は爾余の判断をするまでもなく無効である。

四、よつて、本件仮処分申請は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九四条を適用して主文のとおり判決する。

(畑郁夫 葛原忠知 久保田徹)

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